気候変動への対応

事業活動全体での環境負荷低減

化粧品の容器・包装は中身を安定に保ち、使いやすくする機能とともに、製品についての様々な情報や世界観を伝える大切な役割を担っています。しかし化粧品は消費財であり、こうした役目を終えた後の容器・包装物は、いずれゴミとなり廃棄されるため、その時の環境負荷にも配慮して、容器・包装の開発を行なっています。

コーセーグループでは、自社を取り巻く社会・環境課題のマテリアル分析を行いました。その結果、グループ全体のサステナビリティに関する取り組みと2030年までの目標をまとめた 「コーセー サステナビリティ プラン」の中で、環境・気候変動問題への対応を「事業成長」と「持続可能な社会の実現」の両立を図るために、欠かすことのできない重要な経営課題の一つとして認識しています。2020年10月には、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に賛同するとともに、国内賛同企業などによる組織「TCFDコンソーシアム」に加入しました。

  • TCFDロゴ
  • TCFDコンソーシアムロゴ

今後は、TCFDの提言に基づき、気候変動が事業に及ぼす「リスク」と「機会」について、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの視点から、ステークホルダーへの情報開示を進め、グループ全体での気候変動の対応に積極的に取り組んでいきます。

ガバナンス・リスク管理

コーセーグループでは、サステナビリティに関連する課題を経営課題として捉え、その解決に向けた推進体制を整えています。具体的には、代表取締役社長が委員長を務める「サステナビリティ委員会」を設置し、サステナビリティ戦略を経営会議に提案、承認を受け、取締役会に報告を行う体制を構築しており、気候変動問題に関する評価と監視責任も委員長である社長が担っています。また、サステナビリティ戦略に基づき、個別テーマごとに分科会やプロジェクトを設置し、全社部門横断の取り組みとして実効性を高めた活動を推進しています。

組織の気候変動に関連するリスクは、ERMにおけるコーポレートレベルでの評価をリスクマネジメント・コンプライアンス委員会を中心に特定・評価しています。その中でも、気候変動に関してはエネルギー使用、CO2排出、水の使用、排水という側面で、常に考慮すべき課題として取り上げ、さらにはBCP(事業継続計画)の要素を含め、気候変動に起因するような物理的リスクを考慮しています。気候変動に関する課題の監視は、これらの枠組みをもとに、サステナビリティ委員会およびリスクマネジメント・コンプライアンス委員会によってモニタリングしています。

推進体制図

戦略(シナリオ分析と対応策)

コーセーグループは、気候変動における移行リスクおよび物理的リスクを検討するために、シナリオ分析を実施しました。シナリオ分析は、1.5℃/2℃と4℃の気温上昇がもたらす世界の気候変動が与える財務的な影響を評価し、企業としての取り組み情報の開示を行うと同時に、将来の社会と地球の姿を実現するための経営戦略などを検討する材料としても活用しています。

シナリオ分析図

シナリオ分析に際しては、「コーセー サステナビリティ プラン」をベースに、短期のみならず、2030年以降も見据えた中長期の時間軸で調達、商品・サービス需要におけるリスクと機会の要因を抽出しました。重要度の高い要因に関して、移行面および物理面で影響が大きい項目を特定し、気候変動が当社グループに与える潜在的な影響を測るとともに、リスクと機会への財務上の影響度合いを分析しています。

さらに、2021年度は対応策の検討を行いました。例えば、気候の変化による原材料調達リスクに対しては、安価な原材料の研究開発をサプライヤーとのエンゲージメントによって推進することがリスク低減策の一つと考えられます。また、環境負荷低減型商品やサービスの開発および拡大には、協業や先端技術の導入による製品開発、販売方法の推進が機会獲得策と考えました。分析したリスク・機会は「コーセーサステナビリティ プラン」の取り組みを推進することで、リスクの低減や機会の拡大を図れるものと考えています。

1.5℃/2℃シナリオ 4℃シナリオ
社会変化

脱炭素社会の向けた各種規制の強化

  • 政府:企業に実行力を伴う低炭素化政策・規制の導入
  • 投資家:ESG投融資を加速させ、企業に脱炭素化を要請
  • 消費者:環境に配慮したライフスタイルが進展
  • サプライヤー:社会の要請を受けて低炭素化が進展
  • 流通:社会的責任として持続可能な商品の調達を促進
  • 技術:低炭素ソリューションの躍進
  • 自然環境:災害の激甚化は進むものの、一定程度抑制

バリューチェーン全体で物理リスクの
影響が大きくなる

  • 政府:低炭素化政策・規制の導入は限定的
  • 投資家:災害リスクを懸念し、企業にBCP対応を要請
  • 消費者:気候変動適応に対応した製品・サービスニーズが拡大
  • 流通:物理リスク増加を受けたBCP対応の必要性増加
  • 技術:気候変動適応に向けたソリューションが躍進
  • 自然環境:自然災害の激甚化による経済損失の拡大
事業への影響

脱炭素社会に向けた社会からの
企業への期待の高まりが加速

  • 政府:規制導入による事業活動への影響
  • 投資家:脱炭素への対応動向により企業価値が左右される
  • 消費者:環境に配慮した商品ニーズの高まり
  • サプライヤー:サプライヤーと連携した脱炭素化が事業上重要に
  • 流通:持続可能性に配慮した調達・製造が流通網確保の条件になる可能性
  • 技術:低炭素技術導入に伴う経時的メリットの創出
  • 自然環境:自社拠点に一定の災害による影響が発生する可能性

BCP対応及び災害レジリエンス対応の
必要性が増大

  • 政府:政策・規制による事業への影響は限定的である可能性
  • 投資家:経営のBCP対応状況が企業価値を左右する可能性
  • 消費者:生活環境の変化に対応した価値提供が事業上重要に
  • サプライヤー:BCP対応状況も自社の経営に影響
  • 流通:流通網における災害レジリエンスの向上が重要に
  • 技術:適応技術活用を通じた災害レジリエンス向上が重要に
  • 自然環境:自社の災害影響やQOL消費者(生活者)低下の可能性が高まる

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書におけるSSPシナリオの、2℃(SSP1-1.9シナリオ)と4℃(SSP5-8.5シナリオ)を参照。1.5℃/2℃のシナリオについては、SDSおよびNZE2050も参照。

コーセーグループの捉えるリスクと機会

分類 リスク・機会 影響項目 自社への影響の大きさ 概要 対応策
1.5℃/
2℃
4℃
リスク
(移行)
消費者の環境配慮商品への需要シフト/消極的な対応によるレピュテーション低下 売上高減 ++ 1.5℃/2℃シナリオでは、消費者の環境意識の高まりに伴い、消極的な環境対応が自社製品の販売減につながる。 •低炭素、節水、プラスチック削減やサステナブル素材の採用など環境配慮型製品開発の強化
•先端技術の導入による製品開発、販売方法等の検討と推進
GHG排出量規制の強化/カーボンプライシングの導入(自社・サプライヤー) コスト増 ++ 1.5℃/2℃シナリオでは、サプライヤーを含めて炭素税が課され、自社の運営コストおよび調達コストが増加。 •SBT認定の中期排出量削減目標の設定と削減策の実践
•環境配慮に関する設備投資計画の策定と計画的な投資(省エネ設備の順次入れ替えなど)
プラスチック規制の導入によるプラスチック資材の代替 コスト増 ++ 1.5℃/2℃シナリオでは、プラスチック規制の強化によりバイオマスプラスチックや再生プラの調達の必要が生じ、コスト増につながる。 •プラスチック削減やサステナブル素材の採用
•規制に対応した資材の開発、リサイクルシステム構築の検討
取水排水制限の導入による商品の生産制限 売上高減 ++ 気候変動により操業地域の水ストレスが増加し、取水制限が生じると、操業停止による販売機会損失につながる。1.5℃/2℃でも影響が生じるが、特に4℃シナリオで顕著な影響を想定。 •水使用の更なる効率化(節水・水のリサイクルシステム導入検討など)
リスク
(物理)
気候の変化による原材料調達リスクの上昇 コスト増 ++ パーム油などの自社製品や容器に使用する原材料において、グローバル各地での収穫量が温度上昇により変化すると調達コストが変化する。 •原材料コストの上昇の可能性に関して、グループ会社や他社との共同購買
•代替原材料の開発や調達をサプライヤーとのエンゲージメントにより推進
洪水等災害に伴う製造・物流設備の機能停止 売上高減 ++ 浸水などによる自然災害の影響が自社における生産・物流拠点に及んだ場合、機能停止により自社製品の売上高が減少する。 •BCP対応の強化(現状よりさらに悪化が想定される環境への対応検討。気候変動適応に向けたソリューションの活用)
異常気象を原因とする製造施設損壊やサプライチェーンの混乱 売上高減
コスト増
++ 温暖化が引き起こす影響で自社施設が損壊した場合、修繕費用や建て替え費用などのコストが発生する。また、サプライヤーの生産・物流拠点でも同様に自然災害の影響が発生した場合、自社の製品供給が停止するリスクがある。 •BCP対応の強化(現状よりさらに悪化が想定される環境への対応検討。製造拠点の分散化)
•災害に強いサプライチェーン体制の構築(主要サプライヤーにおける強固なBCPの確立、調達先の複線化など)
機会 紫外線増加に伴う日やけ止め製品や紫外線ケア商品の需要増 売上高増 ++ 日常生活における紫外線の増加に伴い、紫外線ケアを必要とする人の数や使用頻度が増加することで、当該商品の売上が増加する。 •紫外線ケア商品などの積極的な製品開発と展開
•日焼け止めの習慣化など消費者への訴求の強化
気温上昇による冷感商品・化粧崩れ防止商品の需要増 売上高増 ++ 気温上昇に伴い、化粧水やファンデーションなどの化粧関連商品において、冷感性や化粧崩れ防止に対するニーズが増加することで、当該商品の売上が増加。 •冷感性や化粧崩れ防止商品の積極的な製品開発と展開
自社製品の環境フットプリント削減によるブランド価値向上 売上高増 ++ 社会全体の環境配慮の意識が高まる中で、自社の環境フットプリントを削減し訴求していくことがマーケティング上もプラスの効果をもたらす可能性がある。 •低炭素製品要求等に対応(製品ごとのカーボンフットプリントなどの計算、使用時における節水可能な商品の開発)
環境負荷低減商品、サービスの開発および拡大 売上高増 ++ 脱炭素型や脱プラスチック型の商品やサービスを提供していくことが付加価値となり、収益にプラスの効果をもたらす可能性がある。 •アダプタブルな商品への対応(エシカル消費等への対応)
•協業や先端技術の導入による製品開発、販売方法の推進(ビューティーパートナーシップ)
•低炭素、プラスチック削減やサステナブル素材の採用など環境配慮型商品開発の強化
•デジタル先端技術を積極的に取り入れた販売方法の確立
再生可能エネルギー、省エネルギー策の導入によるコスト競争力強化 コスト減 ++ 再エネの購入や省エネ設備の導入により、自社のエネルギーコスト削減につながる。特に1.5℃/2℃シナリオにおいて、電力価格は現在より上昇する一方で再エネ調達価格は低減することで、再エネ調達によるコストメリットが発生。 •再生可能エネルギーの調達(各種PPAなどの導入)
•自家発電、自家消費の再生可能エネルギーの開発

ー:影響は軽微 +:一定の影響がある ++:大きな影響がある

具体的な取り組み

コーセー群馬工場

主力生産工場である群馬工場(群馬県伊勢崎市)において、2021年1月より、購入しているすべての電力を再生可能エネルギーへ切り替えました。年間で調達すると、2018年度を基準とした場合、コーセーグループ全拠点におけるエネルギー・購入電力由来の温室効果ガス排出量のうち、約23%分に相当します。
また、コーセー化粧品販売株式会社では、営業車の利用台数を削減するために、カーシェアリングの活用を推進するとともに、営業業務の抜本的見直しを行い、利用数を削減する取り組みを実施しました。
商品や宣伝物などにおいても、環境負荷低減に関するさまざまな取り組みを行っています。

指標と目標

シナリオ分析の結果から、事業活動によるCO2排出に対して、気温上昇が産業革命以前と比べて2℃を十分に下回るための精力的な削減目標を設定する重要性を強く認識しました。そして、「コーセー サステナビリティ プラン」の中で、当社グループが排出しうる温室効果ガスとしてCO2の削減を取り組みテーマの一つとして定めています。コーセーグループでは、2030年までのCO2排出量削減目標について、自社が使用するエネルギーや電力を由来とするCO2排出量(Scope1・2)で55%削減(SBT1.5℃目標※1認定を取得)、バリューチェーン全体(Scope3)で30%削減(SBT認定※2を取得)と設定(いずれも2018年度を基準)しました。そして、世界が直面する気候変動への対応をより一層強化するため、2040年までにCO2排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルを目指す新たな目標を策定しました。コーセーグループのCO2排出量削減活動としては、自社の事業活動からバリューチェーン全体に至るまで、幅広い視点で意欲的に取り組んでいます。

1:国際的イニシアチブ「SBTi(Science Based Targets initiative)」が提唱する、パリ協定が求める水準と整合した目標。世界全体の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて1.5°Cに抑えるための科学的な根拠に基づき設定。

2:国際的イニシアチブ「SBTi(Science Based Targets initiative)」による認定

2030年目標 Scope1・2のCO2排出量55%削減(2018年比)
Scope3のCO2排出量30%削減(2018年比)
2040年目標 カーボンニュートラル達成(Scope1・2)

コーセーグループのCO2排出量削減活動としては、自社の事業活動からバリューチェーン全体に至るまで幅広い視点で意欲的に取り組んでいます。今後も引き続き、誰もが安心して暮らせる健やかな地球 の未来を実現するために、気候変動問題をはじめとする社会課題に対して実効性のある取り組みを積極的に行っていきます。

環境 地球環境のために